先日、Twitterでとある会社の人事アカウントが炎上し、各種メディアで取り上げたり、Yahoo!ニュースに掲載されるまで発展しました。こういう炎上って面白いですよね(笑)。他人事というわけではなく、世間が今どっち寄りの潮流にあるかが分かるから勉強になります。というわけで、ここのブログでもちょっといじってみたいと思います。
何があったの?
ある有名な会社の人事担当が以下のようにつぶやきました。本来であればリンク紹介するところですが、私の勝手な配慮で転載元を伏せてご紹介します。
これは今年1月最初に投稿されたツイートで一部炎上したようです。今はこちらのツイートが削除されており、私はリアルタイムで確認していなかったためもあるのですが、私には正直何が炎上ポイントなのか分かりません。「世の中に採用してはいけない人なんていないだろうが!」という意味で炎上したのでしょうか?
本当に私にはこのツイートの何がいけないのか分かりません。採用する企業の代表となる人事にとっては「この企業に採用して同じ方向を向ける人か」「同じ方向を向けない人か」という見極めをしなければなりません。その人がたとえ他の会社では有能であっても当該企業では意味を成さない能力となってしまうことだってあります。そういう意味では“採っちゃいけない人”はいるでしょう。とことん綺麗事のように捉えるならば、「社内コミュニケーションが少ないデスクワーク業務を募集」しているにも関わらず「TOEIC950点、IELTS9.0です」なんて人が応募してきたら、「あなたはうちで採ってはいけない人だ。もっと羽ばたける環境や企業があるはずだ」と思う人事だっているのではないでしょうか。採用の背景には必ず必要な“適所”となるポジションや待遇、業務があるわけで…だからこそ戦略的に採用するわけで…その“適所”とは異なる能力を持つ人が応募してきた場合は「採ってはいけない人」になるわけですよね。中途半端に「採ってもいい人」と人事が解釈してしまうと、後々企業にも応募者にも迷惑を与えかねません。そういう意味も込めてツイートした内容だと思うのですが…なんか炎上したようです。私には分かりません。
さて、実はもうひとつ別の人事アカウントのほうが炎上したのでご紹介します。内容としては以下です。一応こちらも私の勝手な配慮で転載元を伏せてご紹介します。
直感的に解釈すれば、このツイートの主旨としては「待遇や給与を期待してではなく、待遇や給与はどうでも良くて会社を好きな人と働きたい」という意図を感じます。そして、このツイートを受けて様々な人から「労働者は待遇や給与を期待して働くものだ。それを無視して会社のために身を粉にして働けというのか」という意図の指摘や「こういう会社が無くならないからブラック企業が減らないんだ」という意図の指摘が相次いでいるようです。
まぁ、この人事アカウントの人が(SNSで不用意な発言をしたという点で)未熟なのは当然ですが、おそらくその背景には、面接する度に「何時まで仕事してますか?」「土日も働きますか?」「プライベートを大切にしたいのですが」等の質問が多くて辟易していたのかもしれません(笑)。その溜まりに溜まったはけ口がTwitterに向いてしまったのかもしれませんね。
採用面接時に本音は出ない
残念ながら、今の資本主義社会で玉石混交の企業がある日本においては、競争社会に打ち勝つために「賃金安くて働きまくってくれる人が好まれる」のは事実です。間違って解釈されると困るのですが、それは現象としての事実ではなく、当然の摂理だということです。誰だって、美味しい料理がタダの方が良いのと同じですよね。「美味しい=素晴らしい成果」「料理=労働者」と例えるのは乱暴かもしれませんが、まぁそういうことです。でも、それは本当に良くないことだという理性やモラル、性善説やこれからの未来、等を考えると「成果には対価がつきものである」という常識を徹底しなければ日本人はダメになるでしょう。あちこちで「成果とそれに応じた対価」が発生しないブラック企業が跋扈すれば、いずれそれが当たり前となってしまい、バブル期のような「24時間戦えますか」スローガンが復活し、ひどい社会になっていきます(ちなみに私が営業の新入社員として入った会社の名刺には「24時間営業」という文字を印刷していましたw まぁ、当時は私も好んで印刷していましたがw)。ひろゆき氏も常々「競争社会においては、その生産力という意味ではホワイト企業がブラック企業には勝てない(死ぬほど働く社員を抱える会社の方が生産性が高いから)。だからホワイト企業が増えない。なので、ブラック企業に働くくらいならみんなで生活保護を受給した方が良い。そういう人が増えたら、生活保護より良い待遇となる企業しか人を採用できなくなる。結果、ホワイト企業が増える」という理屈を展開しています。
ということを前提にしての話ですが、やはり企業の採用担当者として、面接で会うなり「いくらくれるの?」「あんまり働かなくても良いの?」という意図を感じるような質問に対しては、「義務の前に権利を主張かよ」という心理的解釈で怪訝に思うものです。つまり「定時での帰宅は可能でしょうか?」「残業手当はどれくらいからどれくらい発生しますでしょうか?」「御社の社員の平均勤務時間はどれくらいでしょうか?」というような質問です。おそらく人事の本音としては「まずあなたがどれくらいの生産性があるかによって変わります」と答えたいところでしょうが、そこは正直に伝えるでしょう。もしこのまま本音で話そうものなら、応募者側からすれば「当然の権利さえも答えてくれない。まずは働けというブラックな企業だ」と思ってしまうでしょう。一方で応募者としては「私だってテキトーに働くつもりはないのに、なぜそんなに怪しんでくるんだろう。ちゃんと権利があるなら義務を果たすつもりなのに」という心理もあるとは思います。
つまり、採用面接時にはお互いの本音は出ないということですね。それぞれがポジショントークとしての落としどころを見極めて「あなたはこんなの好きでしょ?」「おたくはこんなの好きでしょ?」の言い合いなのかもしれませんね。その中で握るのは現実的な仕事内容と実状だと思いますので、具体的な業務を言えない採用担当がいる企業への入社は控えたほうが良いでしょうし、提示した具体的な業務に対してどうコミットするか言えない応募者の採用は控えたほうが良いでしょう。お互いの幸せのために。
そして、もうひとつ注意しておきたいこととして、個人の常識は性善説に基づいて形成されていますが、法人の常識は性悪説に基づいて形成されているということです。これを説明すると時間がかかるので割愛しますが、ひとりの人間として考えれば分かる良識でも、仕事や法人組織になるとそういう風にはならないということです。実際に、個人は他人に無償で優しくすることもできますが、企業ビジネスになると無償で他社に貢献することは無いですよね。そういうところも含めて個人と企業組織では考え方の根本が異なります。
そのうえで、今回の人事アカウントが炎上した原因のひとつとして考えられるのは「Twitterという極めて個人利用意識が高いコミュニティの中で、企業組織意識が高いツイートをしてしまったこと」かと思います。そのせいで、圧倒的に多い個人利用意識ユーザーから非難される結果となってしまったのではないでしょうか。とはいえ、人事であればその違いも充分理解してSNS利用しなければならないので、やはりそういう意味でも未熟だったのかもしれませんね。
ちなみに、炎上したこと自体については良いことだったのか良くないことだったのか、分かりません。今回の事件のおかげで企業の認知度は(良くも悪くも)上がったでしょうし、人事アカウントへの注目度も増したでしょう。プロセスの良し悪しはあれど、本件によって注目・認知された事実は担保できました。
企業人であれば持っておかなければならない心得
ここまでお読みいただくと、なんとなく私は人事側の味方のように感じる人もいるかもしれませんが、決してそうではありません。実際にムカつく人も多くいます。会社説明をしているうちに、会社を語るようになり、結果まるで自分が会社を経営しているかのような錯覚に陥るのかもしれませんが、随分と上からモノを言う人もいます。人事と一言にいえども、採用人事や広報人事、評価人事など様々な業務があるのですが、基本「人」を取り扱う以上、聞き上手になることも必要なわけで、ましてやヒステリックになってあることないことを言って良いはずがありません。こういう人は正直私もムカつきます。
営業でもそうですし、社内でも社外でもコミュニケーションをする人は誰に対しても言えますが、企業の看板を使わせてもらっている以上、絶対に気を付けるべきですよね。「生産部隊に対して、非生産部隊が…」なんてことは絶対に言ってはなりませんし、それぞれ必要な業務や責務があるので仕事内容の優劣はつけられませんが、少なくともお互いがお互いの仕事に依存している以上節度は守ってコミュニケーションを取るようにしましょう。
今回取り上げた内容は、あくまでも採用人事における不用意な発言が反感を買ってしまった事例ではありますが、明日は我が身ですので私も気を引き締めたいと思います。