前回の営業テクニックに続き、行動心理学に基づく用語の説明をしたいと思います。今回は両面提示とLow-Ball Technique(ローボール・テクニック)についてです。メリットデメリットの提示とその方法についてのご紹介です。
両面提示
人に何かを推薦したり、提案したり、説得する時に、メリットだけ伝えると逆に胡散臭く感じませんか? メリットという片面提示しかしないと「そんなにうまい話があるのか?」と受け手は疑ってしまうものです。例えば「ぜひ恋人として紹介したい人がいるんだけど、その人は性格も良くて優しくて、見た目も美しいんだよ」と言われたら、「なんでそんな人が恋人を募集する必要があるの? 何か変な癖があるんじゃないか?」と疑ってしまいますよね。でも「ぜひ恋人として紹介したい人がいるんだけど、その人は性格も良くて優しくて、見た目も美しいんだよ。ただ、服のセンスや髪形がなかなか周囲に受け入れづらい格好だから、最初に相手に引かれちゃってなかなか恋愛に発展しないんだって」というように良くないところも伝えると相手は正当に聞いてくれます。「そんなことだったら、全然気にならないから是非紹介してよ」と前向きに考えてくれるようになるかもしれません。
ここでは人柄を例に挙げたので、かなりセンシティブな印象になってしまいましたが、このようにメリットだけでなくデメリットもしっかりと伝えることで、さらに、そのデメリットがメリットになる副作用として正当に譲歩できる内容であることで、両面提示をすることで非常に説得力が増します。ビジネスシーンを例として以下にご紹介します。
- 今回、人気の広告枠が1週間で100万円のところ、30万円で実施できます。
- ただし、その分広告の表示回数は若干減ってしまいますが。
- この商品は効果と品質が高く大変人気で、そのうえ低価格です。
- ただし人気ゆえ納期まで少しお時間を頂戴しますが。
ポイントとしては、デメリットを伝えることで「そりゃそうだよね」という納得感を引き出すことと、デメリットがメリットを打ち消すほど致命的ではないことです。つまり、メリットの反動がデメリットになるように伝えた上で、その反動がメリットを上回る程ではなく極力小さく済むような伝え方をすることです。
Low-Ball Technique
次に、両面提示で必要なメリットとデメリットの伝え方として活用できる心理テクニックがLow-Ball Technique(ローボール・テクニック)という手法です。これは、一度決断したものを覆したくない受け手の心理を巧みに利用しています。まずは、相手に対して好条件(メリット)を提示し、受け入れてもらいます。その後、相手にとって不利な情報(デメリット)を付け加えることで、条件を飲ませざるを得ない状況を作っていくものです。
相手が承諾しやすいよう、低いボールから投げていくということが名前の由来です。でも、ボールというよりハードルと言い換えたほうが意味としては分かりやすそうですね。以下が例です。
- 話し手「このサービスはなんと月間1,000円です!」
- 受け手「安い!加入します!」
- 話し手「但し、年間契約です。」
- 受け手(マジか…でも、加入しますって言っちゃたし、いっか。)
- 大きく表示「今なら50%OFF!」
- 消費者「お、購入しよう!」
- 小さく表示「但し、20,000円以上お買い上げの方に限る」
- 消費者「あー、じゃあせっかくだから20,000円分購入するか…」
後出しじゃんけんみたいですね。つまり、一度相手側の承諾や積極的意志を担保した上で、相手にとっては都合の悪い(こちら側には都合の良い)条件を提示する方法です。相手は引っ込みがつかなくなってそのまま承諾を進める、みたいな流れを期待するテクニックですね。
使い方に注意!誠意あるコミュニケーションを
今回の内容――特にLow-Ball Techniqueについては詐欺まがいの手法にもなりかねないため、使い方にも注意が必要です。もちろん行動心理学に基づいたテクニックに過ぎないので、決して罪なやり方ではないのですが、そこに愛情や誠意が無いと、本当にずる賢いだけの人間に映ってしまいます。まるで「当たり前じゃ!そんな都合の良い話なんてあるか!」なんて吐き捨てるような態度で相手と接してしまうと訴えられかねません。
この手のテクニックを間違って使うと、2人の間柄に亀裂が入ってしまったり、長い目で見ると良好な関係性になりづらかったりしてしまいます。しっかりと誠意を持って「言いづらい中、上手くなんとか伝えている」という印象になるよう、注意してコミュニケーションを取るようにしましょう。